歯のパーセンタイル曲線って使ってますか?
以前「歯のパーセンタイルを作ってみました」という記事を書きましたが、具体的な使い方にはあまり触れませんでした。
今回はその機能の具体的な使い方を解説していきます。
1、初診時の説明方法
まずはカルテを開いて、「パレット」メニューから「パーセンタイル」を選びます。選ぶとこんな画面が表示されます。
最初に右側にある「参照」ボタンを押します。
このボタンを押すと開いているカルテの残存歯の推移のデータを取得して下のリストに表示します。
初診で残存歯登録だけされている状態でボタンを押した状態が次のような画面です。
そして、リストの1行をクリックするとその場所がグラフ上にプロットされます。チェックマークが付いている行がプロットされている部分です。
49歳で残存歯が22本、かなり悪い状態で、100人中90人であることがわかります。
口腔内検査をして、「残ってる歯は22本です。かなり悪いですねぇ」と説明しても患者さんはあまり実感してくれません。意外と食事できてしまったりしますし、他の人がどのくらいの状態なのかという具体的な情報がまったくないからです。
でも、このパーセンタイルのグラフを見せて、「残ってる歯は22本です。あなたは同世代の人100人中90番目に悪い状態です。下から1割の中に入ってます。」と言われると、俄然、目の色が変わってきます。ヤバいなぁという顔に変わるでしょう。
人は、他人との比較や具体的な数値で初めて実感できるのです。
逆に本数を伝えた時に「それって、どれくらい悪いのでしょうか?」と質問される場合は、すかさず、このパーセンタイルを使いましょう。具体的にかつ即座に回答が得られると患者さんの信頼感はとても向上します。
さらに、このグラフは未来の予測をビジュアル化できます。使うのは上のリストと「+」ボタンです。
「+」ボタンを押すと、上のリストに1行追加されます。
追加した後に「年齢」と「本数」の欄を修正します。ゆっくりと2回クリックするとカーソルが中にはいりますので、あとはエクセルのような表計算ソフトと同じように数値をなおします。
年齢だけを60歳に修正すると、こんな感じにプロットされます。
順位は自動的に計算されて「72番」に変わります。治療とメインテナンスが成功すれば10年後には順位が20番近くあがることがわかります。
患者さんにこれを見せて説明し、治療の効果を具体的に理解してもらうことと、長期的な 目標を持ってもらい治療へのモチベーションを高めていくことができます。
さらに先の70代の数値もいれてみます。
70歳では48番です。
患者さんには「70歳まで維持できれば、ほぼ平均的な健康状態を手に入れることができます。」と将来の希望を提示できます。
逆に悪化する可能性を説明することもできます。
このグラフは本来、個々の患者さんの経過を追跡したものではなく、全年代を横断的に一斉に検査した結果ですので、ある順位の人が将来こうなると予測できるものではありません。
ですが、あとで説明しますが、多くの患者さんはこのカーブに沿って悪化していきます。良くできてます。
大まかに言って、若いうち歯が多く残ってる人は将来的にもそれほど歯を失わないが、若い時に比較的多く失ってる人はその後も早めに歯を失っていくのです。
ですので、この患者さんには、「今のまま放置した場合、多くの場合、このカーブに沿って悪化していきます。」と説明します。
そして、具体的に数値を変更してプロットします。
患者さんには「このように、60歳で13本、70歳の時には5本しか残りません。」と将来予測を説明できます。
この効果はなかなかのものがあります。恐怖を与える手法はあまり好ましいものではないですが、モチベーションの維持には必要なテクニックではあります。
2、メンテナンス時の説明
長期に通われていてメンテナンスを繰り返していると大きな変化がなく、なかなかモチベーションを維持できなかったりします。そんな時もこれを使ってみてください。
長期の通ってる場合、「参照」ボタンを押すとずらっとリストがでます。再初診ごとに年齢と本数、そして順位がリストアップされます。
好きな行をクリックすればそれがプロットされます。
メンテナンス時には、まず、最初に来院した時日をクリックし、今日あるいは前回の来院の行をクリックします。
と、このように本数が変化しなくても、この20年間で24番から7番に大きく改善したことがわかります。
「○○さん、頑張ってますね!20年近く1本の歯も無くさなかったので、順位が24番から7番になりましたよ!」といってあげると励みになります。
さらに、右上のところに将来予測をいれて将来の目標を明確化します。
「85歳までこのまま頑張ると4番ですよ!」といった感じです。
逆に悪化してしまう場合も「見える化」は大事です。
治療を中断して、しばらくして来た状態が悪化してるとか、治療を続けていてもあまり予防に熱心ではなく環境の改善ができずに悪化する場合、どのくらい悪化しているのかを具体的な数値で感じてもらうことができます。
3、症例の分析
長期の症例でどのように欠損状態が推移したかを分析できます。
例えば
83番から69番に改善しいますが、プロットするポイントを増やしていくと
75歳までの10年間は治療をがんばったのだけどカーブに沿って悪化していったことがわかります。
75歳から85歳までは本数を維持できていて、それが順位の向上につながってることがわかります。
この方の場合、60代の時に一気に悪化しています。
この患者さんの場合、初診時から歯周病の状態がおもわしくなく、それでも15年間は頑張って維持してきたのですが、悪化を食い止めきれず抜歯に至ったというものです。歯周病の場合、全体に平均的に進むので、どうしても抜歯は将棋倒し的になってしまうという実例でもあります。
このように推移とカルテを突き合わせて、どこに問題があるのかを検証していくことができます。
この方は比較的上手く管理がされているケースです。何本かは抜歯になってますが、順調に順位は向上しています。
こういうケースは理想的ですね。
これを見ていると自分の医院のレベルがわかってきます。そして、このカーブにそって推移する患者さんが結構多いことに愕然とします。
このカーブ自体、何のしないで放置した結果ではなく、全国の歯医者さんががんばって治療している環境でこのような推移をするという結果ですので、ある意味このカーブに沿っているというのは、ごく平均的な治療の結果なのでしょう。(と自らも慰めつつ(^^;;)
とはいうものの、自分の患者さんがより順位がよくなるように、理想的にはずっと歯数を維持できるような患者さんがひとりでも増えるような医院を作っていきたいものです。