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2008年2月11日 (月)

Fly me to the Mercury - 私を水星に連れてって

Prockter07
日本では全然話題になりませんが、アメリカの水星探査衛星メッセンジャーが先月末に水星に到達して詳細なデータを送ってきています。これがその写真です。


Messenger_science_instruments_sm
水星といえばちょっと前に公開されたサンシャイン2057という映画で描かれていました。太陽光に炙られて真田広之演じる船長カネダが蒸発していくシーンは衝撃的でしたが、実際にはそんなに熱くはありません。それでも地球軌道上と比較すると11倍の輻射を受けるので探査機の表面温度は450度に達します。ファーネスの中に比べればまあ大したことはないです。でも見るからに頑丈そうなあの宇宙服が溶けてしまうという温度ではないです。映画見ながら、溶けるわけねーだろと一応はツッコミをいれておきましたが(笑)
でも450度は450度です。通常の電子機器が耐えられる温度ではありませんので、メッセンジャーもこんな感じの亀の甲羅(ガンダムの楯?)のようなセラミック製のシールドで中の機器を守っています。


Traj_helioecl_earth2moi_09062007
水星の探査は34年前にマリナー10号以来行われてきませんでした。それもランデブーには成功しても通り過ぎるだけの探査なので、水星の全表面の撮影はできませんでした。地球上からも太陽が邪魔で近い惑星にわりには非常に観測が難しい惑星です。
探査機による観測が難しいのは、一見すると映画に描かれた熱の問題のように思いますが、実は違います。
難しいのは太陽の重力のためです。
火星、小惑星、木星、土星といった惑星には次々に探査機が送られてその惑星軌道上で恒常的な観測を行っています。これらは外惑星といって地球より外側にあります。外惑星に探査機を送る場合は地球の公転速度にちょっと速度をプラスして送り出します。そうすると探査機は太陽の重力に引かれながら、ちょうど坂道を登るように段々と速度を落としながら目標の惑星に近づきます。
目標の惑星の周回軌道に乗るには、近づいた地点で惑星の重力に捕まるように減速しますが、外惑星は比較的重力が大きい上に、太陽の重力に引かれて速度も落ちているのでそれほど燃料を使わずに惑星周回軌道に乗せられます。
ところが内惑星の場合、逆に坂道を転がり落ちるようになります。送り出すだけなら太陽の重力に引かれてどんどん加速して速度が増しますので燃料をそれほど消費しないでも到達可能です。しかし目標の惑星の周回軌道に入るにはブレーキをかけなければいけません。
地球上でも数メートルの高さを落ちると凄い速度になります。およそ1億Kmの坂を転げ落ちた先に水星があります。(まあこの比較はあまり適切ではないですが)その上、月を少し大きくしただけの大きさしかないので重力も少ないという悪条件が水星には重なっています。(その点、同じ内惑星でも金星は、地球にも近く大きさも地球とほぼ同じですから条件が緩く、惑星周回探査機が行っています。)
実際のところ、探査機にブレーキをかけるだけの燃料を積み込むことは現実的ではありません。(燃料をよりたくさん積む→質量が増す→より強くブレーキが必要→燃料がもっといる→重くなる.....)
そこでどうするかというと、惑星の重力を使ってブレーキをかけます。これをフライバイといいます。フライバイはボイジャーのような外惑星探査機の場合加速するのに使います。昔ローラーゲーム(東京ボンバーズ!)というのがあって選手を加速するのに腕を持って振り出す技(ホイップ)がありましたがあれです。
探査機の場合、近づく軌道と離れる軌道を選ぶことで加速も減速もできます。
メッセンジャーの場合、なんとこれを図のように6回もやります。
地球で1回、金星で2回、水星で3回。これだけブレーキをかけてやっと水星の重力に捕まることができるのです。2004年に打ち上げて3年半。3回のフライバイをしてやっと最初の水星によるフライバイが今回です。
Panel
どこか切ない別れの写真です。せっかく近づいたけど、まだ本当の出会いまでは時間がかかります。あと2回ご挨拶してからやっと結婚です。結婚式は2011年3月18日。

Fly me to the Mercury

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